若き研究者たち 未来のエネルギー 核融合について語る
緑あふれる大阪大学。敷地内の案内板を頼りに、レーザー核融合商用炉の実現を目指す株式会社EX-FusionのCEO松尾一輝さん(平23年卒)の待つテクノアライアンス棟にようやくたどり着く。そこにはEX-Fusion社の他、ベンチャー企業7社が集積。世界でも有数の大型レーザー実験装置を備えた施設も隣接しており、その分野の研究者にとっては最適な場所である。今回の取材では、同じくヘリカル型による核融合炉の実現を目指すスタートアップ企業・株式会社Helical Fusionの共同創業者で核融合科学研究所/総合研究大学院大学(岐阜県土岐市)助教の後藤拓也さん(平11年卒)にも出張先の青森・六ケ所村からオンラインで参加いただき、新しいエネルギー「核融合エネルギー」や、北高時の思い出について語っていただきました。
遠くない未来のエネルギー
「核融合エネルギー」とは何か。〝核〟という言葉に一瞬ネガティブな感情を抱く日本人は少なくない。核融合とは、簡単に言うと、水素などの軽い原子を核融合反応させてエネルギーを発生させることであり、その研究は、「地上に太陽をつくる」研究とも言われている。核融合反応を起こす方法は主に3つ。磁場閉じ込めの代表例として、トカマク型、ヘリカル型、また、慣性閉じ込めの代表例として、レーザー方式がある。このうちのヘリカル型を後藤さんが、レーザー方式を松尾さんが研究している。核融合エネルギーのメリットは主に3つ。①燃料資源が無尽蔵であること。核融合に使う水素(主に三重水素と重水素)は海水から作り出すことができるため、風力や太陽光発電のように天候に左右されることもなく、また原子力発電のようにウランを輸入する必要もない。いわば持続可能な国産エネルギーである。②原子力発電のような事故を起こさず、超長期にわたって管理が必要な放射性廃棄物を出さないこと。③二酸化炭素を発生させないこと。一方、デメリットもある。核融合反応を起こすことが本当に難しい。水素の原子核はプラスの電気を帯びているため、反発し合う二つの水素を超スピードで衝突させなければならない。しかもその温度はなんと1億度。その上、ある程度密集させて一定の時間を保たなければならない。それを磁場の力やレーザーの力で実現しようと研究している。核融合エネルギーについての研究が始まったのは約50年前。第一次石油危機で世界がパニックに陥ったとき、高度成長を中東石油に頼ってきた日本も石油代替となる新エネルギー技術を開発する流れになった。現在は、ようやく複雑な物理を理解しそれぞれの方法がわかってきたところで、設計を元に装置をつくる今の段階は、「大体7合目あたり」という。これが完成したなら、エネルギー危機と結びつく国際紛争や環境問題など、地球の様々な課題が解決できるかもしれない。「太陽も核融合反応。機動戦士ガンダムのモビルスーツを操るのも核融合が動力源。人類の進化の過程で、段階が1つあがるのではないだろうか」とお二人は目を輝かせる。現在、核融合を研究している会社は国内に3社しかない。そのうちの2社を同窓生が牽引していることになる。核融合エネルギーを実現するという同じ目標に向かって研究するお二人。出身が岐阜で、しかも北高卒であることをつい最近知ったという。
お二人の道のり
自宅から徒歩圏内だという程、近くにあった北高に入学した松尾さん。いざ入学はしたもののやりたいことが見つからず、サッカー部に所属するも高校三年間の思い出はほとんどない。「自分とは何か」。渾沌とした中で見つけた一つの夢は、山で自給自足生活をする仙人のような生活をすることだった。先生や親の意見にも耳を傾け、物理と数学で受験できる関西大学へ入学。そこでその後の人生を変える浅川教授との出会いがあった。「研究者としての基礎が備わっていない」と、物理の教授から苦手な国語と英語をマンツーマンで指導を受ける日々。「今思えばこの頃は死ぬほど勉強した」と、松尾さん。結果、海外の論文を読む力を得た。人間の寿命や宇宙に関する研究も興味があったが、消去法で合理的に無尽蔵エネルギーの研究に進む。関西大学に在籍していながら核融合の研究なら大阪大学でと勧められ、4回生から大阪大学でも研究を行う。ここでもう一人の恩師 藤岡教授(現在も共同研究者)との出会いがあった。博士取得後はカリフォルニア大学サンディエゴにてレーザー核融合の研究をし、帰国後の昨年7月に株式会社EX-Fusionを起業した。仙人になる夢もいつしか研究者に。偶然が重なり、導かれるように研究者の自分があるという。一方、中学時代に環境問題へ興味を抱き、身内の戦争の話をきっかけに原子力にネガティブな感情を抱いたという後藤さん。本を読み原子力を知るうちに、正しく理解した上で安全に扱う必要性を知る。国語や文系科目も得意だったことを生かして東京大学を受験。そして核融合と出会う。「核に対して不安はゼロではない。葛藤はある。それなら尚更、正しい理解と知識を正しく発信していかなければという使命に変わった」という。博士取得後、核融合科学研究所の助教として勤務する。そして最近、核融合のスタートアップ企業 株式会社Helical Fusionの設立にも参画。「初めから研究者になりたかった訳ではなく、当時は核融合の仕事をするなら研究者しか選択肢がなかった。」と後藤さん。「今はスタートアップ企業も立ち上がり、企業としても核融合に関わる仕事ができる。研究開発費も、国家予算だけではなく、起業して民間資金も集めることができるようになり、柔軟な選択肢が増えた。」とも。北高では吹奏楽部でトランペットを担当。5歳から続けているエレクトーンは今もサークルとして楽しんでいる。「無理せず楽しく」を心掛けて続けている音楽は生活に欠かせない。お二人とも共通してこう語る。「私は運が良かった」と。周りの人も環境も、そして運も手繰り寄せる彼らの魅力。ひたむきに向き合う姿と熱意がきっとそうさせるのだろう。
在校生へ
「『楽しい』『面白い』と思うことをとにかく全力でやるのがいい」と後藤さん。「得意なことを伸ばすのもいいし、好きなことをとことん突き詰めていくのもいい。好きなことは諦めないし、続けられるから。北高の先生は効率のいい授業をしてくれた。先生が勧めてくれた参考書をきっちりこなしていったらすごく力がついていた。こんなに良い環境を生かさない手はない。すごくいい学校なので、高校でしか味わえないことを思いっきり楽しんでほしい」と現役北高生にエールを送る。一方「やりたいことが見つからない人は、とりあえずいい大学に行くと良い」と松尾さん。「そこでいろんな面白い人に出会えるから。それと、研究をうまく伝えるための日本語力。そして論文を世界へ発信するための英語力。そのどちらも不可欠であるため、疎かにしないことが大切」と力説する。
夢の話
夢は、後藤さんも松尾さんも当然「核融合エネルギーを実現すること」。松尾さんはレーザー方式で、後藤さんはヘリカル型で。お二人の道のりは違えど、目指す夢は同じ。そこには50年以上研究してきた人たちの想いもある。「事業として成立させたい。いつかはわからないが、もっとできることはある。ただ、人生を楽しみつつ、自分がやりたいことは無理のない形で実現していきたい。人類にとってとても大事なことだから。」とも。お二人にもう一つ共通している点は、できるかどうかではなく、どうやって実現させるかだけを考えて突き進んでいること。お互いを素晴らしい研究者だとリスペクトする謙虚さも、言葉の端々から垣間見えた。
ちなみに最近は、学内にスタートアップ企業があるという大学も多い。松尾さんは大学のベンチャーキャピタルや民間キャピタルなどを利用して研究開発している。将来、核融合が新しいエネルギーとして実現することで利益が投資家に還元される。そのマーケットは計り知れない。2050年カーボンニュートラルに向けて、必要量を網羅するのに核融合エネルギーは必要であり、投資家たちはそこに注目している。ではそのような将来性と期待値に対して、私たち同窓生はどのような応援ができるだろうかとふと思う。彼らができることが研究開発なら、私たちができることは、まず〝知ること〟ではないだろうか。新しいエネルギーの1つである「核融合エネルギー」のこと、その研究開発を続けている彼らがいることを。私たちはその取り組みに今後も注目し、岐阜北高校から、岐阜県から、発信していくこともまた持続可能である。北高のスクールポリシーでもある「荒野を拓く探求人」。若き研究者二人を、今後も見守らずにはいられない。